鳴海、脱ぎます
「鳴海、愛士ん家でゲーム大会するけど来る?」
「えっ超行きたい。でも用事あるんだ、また誘って!」
そう。だーいじな用事。
夏を見送ってから三組をひょっこり覗き見。
いたいた。ほんとに背え高いなあ。俺も低いわけじゃないんだけど。
「梅宮くん、ちょっといい?」
「……鳴海君?」
□■□
放課後の食堂って、案外人が来ないんだよね。穴場ってやつ。
「えっと…………」
梅宮くんは面接みたいに固くなっていた。無表情の後ろでオーラがすごい困ってる。
そうだよね。初対面だもん。
「夏のこと、どう思ってるの?」
俺はできるだけ可愛く両手で頬杖をつき、首をちょっと傾げた。
「……自然消滅したけど」
「んーとね、そこじゃないんだなあ」
牽制じゃなくってね、と俺は続けた。
「夏のことがまだ好きなら、俺は正面から勝負するつもり。でも違ったら悪いから、その確認」
梅宮くんは(多分)ちょっと驚いた後、そう、と呟いて目線を落とした。言葉をがんばって探している感じ。
「…………好きか嫌いかで言うのなら、すごい好き。でも……」
「でも?」
「夏は俺なんかと……俺といたら疲れちゃうから」
相変わらずの能面だけど、代わりに声が自嘲していた。
ていうかちょっと待って。
「ぱーどぅん?」
「えっ?」
男二人が向かい合っておろおろしている図が出来上がっちゃった。
でも、そこらの女の子より鋭い勘が、わりと面倒くさい事態を告げてる。
付き合ってから急に距離ができちゃったんだよね。元から無口なタイプだけど、全然喋らなくなっちゃって。
香音は、どうしたかったのかな。
「夏がそういうこと言ってたの?」
「……ううん」
「じゃあなんでそう思ったの?」
「……夏は、優しいだろ」
「君は勝手に黙っただろ」
「……」
冗談でしょ。こんな典型的なすれ違い初めて見るよ!
叫びそうなのを抑えて一息置く。ついでに足を組んだ。
「言わなきゃわかんないよ。そんなことされたら嫌われてると思っちゃう。
ついでに言うと君たちが解決してくれないと俺も困るんだよね」
ため息がうっかり出ちゃった。
そっか、とこぼした彼が何か話したそうだったので待つ。待つ。まだ?
「…………鳴海君は夏と付き合いたいの?」
「今更そこ聞く?」
「ごめん……いいと思う」
「は!?」
今度こそ大きな声を出しちゃった。つい肘をついて身を乗り出す。
梅宮くんはイラっとするほど狼狽えてから、下を向いてぽつりぽつりと喋り始めた。
「夏祭りに、一回だけ行ったことがあるんんだけど……はぐれそうになった時、手、掴んじゃって。
すごくびっくりさせちゃった」
だから浴衣着れるのか、とかは奥歯ですり潰して飲み込む。
「……普通、ドキドキしたりするんだろうけど。俺は、怖がらせたことで頭がいっぱいだった」
絞り出すような梅宮くんの低い声に、俺の方が怯んでいた。
机を見つめたまま彼は続ける。
「夏がどう感じたかはわからない。
だけど俺は、夏が笑っててくれるなら……友達でも何でもいい。仲良くできるなら無理に付き合わなくてもいいのかな、って勝手に思ってた」
唐突に梅宮くんの目が俺を捕まえる。後ろめたいことなんてないのにこっちがギクッとした。
「そうだよね。言わなきゃ、わかんないよね。
……ありがとう」
さっきまでの能面が嘘みたいに、ふんわりと顔を綻ばせた。
この子、きっとムカつくくらい優しいんだ。
「そう思うならさっさと解決してくださーい。じゃあ俺はもう用無いから」
今からゲーム大会間に合うかな、と考えながら席を立つ。ストレス発散したーい。
「うん……鳴海君なら、怖がらせないでくれそう。がんばって」
はっきり言おう。やっぱこの子嫌い。