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閑話休題

「時雨、購買行こ」
「あたし今行ったばっかりなんだけど」
「散歩だよ散歩」

「時雨ちゃんも行くの?」
「えっ、あ、うん」

 ひさびさの王子絡みキタアアアアア! FOOOOOO! 江西殿ナイスプレー!
 今日も麗しいです時雨様ダークブルーのお髪に隠れたお耳が赤く色づいてますねごちそうさまです!
 全然気が付いていない王子も素敵ですまさかわざとなんですか!? それだけ柔和な笑みを浮かべておきながらまさかのドSなんですか!? 天然も腹黒もイケるだなんてさすがです雪村王子! そこにシビれる! あこがれ

「あ、秦さんごめんね。席にずっと座っちゃってて」
「ううん。気にしないで鳴海君」

 あっぶねえええプリンセスなるみんってば、ほんとよく奇襲しかけてくるんだから主に座席のことですけど! こんなモブ同然の一四九センチにも優しいなんて聖母か! 姫だった!
 でも申し訳ございませんマリア様、いや鳴海様!
 王子×なるみんもいいんですけど、それがしの推しカプは王子×王子なのでございます!
 とりあえず真顔で自分の席につきます。残り香アアア……。

(休み時間ごとに手提げ持って教室を徘徊していたら確実に怪しい……どうにかせねば)

 どこにでもある布製のサブバッグには、戦友達と分け合った宝の山。ええ、貸し借りしている漫画や、個人的に使っている下敷きやファイルなどです。家に保存用と観賞用もあります。
 なるみんや王子に、それがしの人目を憚る趣味が露呈してはなりません。あくまで彼らは彼らの、衆道とは無縁の日常を送って頂かなければなりません。それがしこう見えて勉強は得意です。特に文系。

(やはり奴のロッカーに一時退却させて頂くのがベストか……いやあっちもパンパンだったし、ここは賃貸のペースを落とすしか、いやしかし早く読みたい)

 携帯の待ち受けを眺めながら考え込んでしまうのは、それがしの悪い癖であります。画面は同胞以外に見せられるものではございません。

「……あの」
「ふひゅおおっ! はい!?」

 本日二度目の奇襲は気配がありませんでした。思わずそれがしは携帯を床へ落とし、肌色多めの待ち受けが大の字に……。
 光速で回収しましたが、背後に立っていた男子生徒に丸見えでした多分。よりにもよって男に。男が意味深に絡み合っている画像を。十八禁ではないとはいえ。

「夏……江西、いる?」
「え、あ、いや今っその、購買に……!」

 紫色の少し無造作な髪と、同じ色の覇気がない目。
 さらにぼそぼそ喋る能面のようなこの御仁、それがしが座っている上にチビいうことを差し引いてもやたら背が高い。首が痛いでござる。心も痛いでござる。

「そっか。座席ってどこ?」
「こ、こここここです!」
「ありがとう」

 奇跡か!? 奇跡が起きた!? クララが立った!? いやこれ違う。
 無気力系トーテムポールは、江西殿の席に紙袋をかけるとそのまま去って行きました。この待ち受けを見ていたならば、もう少し挙動不審になるはずです! セーフ!


 □■□ 


 そう思っていた時期がありました。

「あ……アニメの子」
「じぇpぎrjかgゔぁえ」
「え?」
「なななななんのことでしょう?」

 それがしは社会科委員です。資料が多くて先生が大変だからという理由だけで発足された雑用係であります。
 昼休み後の授業に使う巨大ポスターを、社会科準備室まで取りに来ただけであります。なぜ準備室から出てきたのですか能面の君……! 勘弁してくださいさっきノーリアクションだったのに!

「待ち受け……」
「hrぃえbりいうせgれs」

 顔は大火事で背中は大洪水です。答えは風呂場とか。なぞなぞだけの話だと思っていました。

「ごめん。つい目が行っちゃって……」

 あまりにテンパっているそれがしに、なぜか能面殿が申し訳なさそうです。こちらこそすみません。

「いえいえいえいえいえいえいえ。是非見なかったことn「あのアニメ知ってる人少ないから……ちょっと嬉しくて」
「え?」

 少ないに決まっている。明らかに腐女子を意識した深夜アニメですよ。むしろ健全な男子高校生がなんで。しかも女に困らなそうな綺麗系美人じゃないですかこの方。背も高いし、足もすらっと長い。ふおお羨ましい……!

「最初は姉貴に強制されてだったんだけど……面白いよね」
「そ、そうなんですね! ワタシも毎週観てます!」

 お姉様かああああああ紹介してくだされええええええええ!
 というかこの方は腐男子ということか? 同胞のサインか?

「おー、秦。来てたのか。ちょっと多いけどこれ頼むわ」

 慎重にタイミングを伺っていたそれがしへ、準備室から顔を出した先生がポスターを放り投げました。長さがそれがしと同じくらいだと……!
 そして先生は能面君にも段ボールを押し付けました。今日は資料が多いようです。

「悪いけど、梅宮も手伝ってやって。そいつ二組だから」
「はい……行こっか、えっと……秦さん?」
「ひゃ、はい!」

 のんびりと歩き出したトーテムポール梅宮殿に続きます。

「秦さんって……腐女子?」

 のんびりとぶち込んでくださいましたが心の準備が全く出来ておりません。

「えーと、その、人には、言わないで頂きたいのですが……」
「……やっぱり秘密にしたいものなの?」
「そう、ですね、引かれること間違い無しですし」

 ぐいぐい来るなあああああ。傷口を開いて叩いてじゃんけんぽんってかあああああ。
 筒状に丸められたポスターが手汗で滑り、無意味にくるくる回している奴になっております。

「俺……少女漫画、結構読むし好きだけど。引く?」
「え!? い、いえ引きはしないかと」

 マジですか。むしろ意外の一言に尽きます。
 勝手な印象ですが、彼はどちらかというと部屋で黙々とギターを職人のようにかき鳴らしているイメージです。

「姉貴の影響かもしれないけど……腐女子向けのアニメも少女漫画も、俺にとってはあんまり変わらないかな……」

 梅宮殿はちょっと変わっているというか、ものごとの捉え方が大雑把な気がしてきました。たしかにどちらも恋愛に重きを置いていますけども。
 彼は教卓まで段ボールを運んでくれました。本来いないはずの梅宮殿はクラスメートの注目を浴びてしまいます。申し訳ない。

「……あ、でも」

 こうも理解を示してくださる一般(?)の方は珍しいですし、良い人なのかもしれません。
 そう思っていた時期がありました。

「エロいのは、隠した方がいいと思うよ。さすがに」

 衆人環視の中そんな誤解を生むような発言をするとはjかshbんrkしうあb!

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