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夏の話

 久しぶり。
 今日の放課後、少し会える?
 忙しかったらいいよ。


 □■□


「……ごめんね、来てもらって」
「ううん。なんか久しぶりだね。香音」

 いきなり失敗したかも。用があるのは俺の方なんだから、夏のクラスに行けばよかった。
 夏はなんでもない顔をして俺の隣に座った。ちなみにそこは元地君の席。
 目を見て急かすわけでもなく、でもきっちり座って“待ってるよ”って教えてくれる。
 そんな見守るような優しさが好きで--かっこいいと思った。

「勝手に黙って、ごめんね」

 俺が喋り始めるとこっちを向いてくれる。聞いているよ、って。
 ああ、でもちょっと緊張している。口角が少し下がっているから。ごめん。

「夏は優しいから甘えちゃいけないと思って……結局甘えてた。俺が何考えてるかなんて、言わなきゃわかんないのに。
 付き合ってもらってるから、嫌な思いしてほしくなかった。夏が望むようにしてほしかったんだ。
 ……余計に気を遣わせただけだったけど」

 あ、どうしよう。また失敗したかも。これじゃ説明が下手すぎて何の話かわからない。言葉が足りない。
 俺が焦っている間、夏はしばらく目をパチパチさせた後、ふにゃっと笑ってくれた。

「私だってそうだ、ばか」

 推理してくれたらしい。本当にすごいなあ。
 甘えちゃったことは反省しなきゃいけない。
 だけど、久しぶりに笑ってくれたのが嬉しくて、俺まで釣られていた。

「あと……怖がらせたことも、ごめんね」

 居心地が良くてずっとこうしていたいけど、大事な話はもう一つ。

「夏祭りに行った時……手を掴んじゃったの覚えてる?」

 すぐに合点がいったらしい夏は、弾かれたように身体ごとこっちを向いた。

「嫌だったわけじゃないから! びっくりしただけで……」
「うん。知ってる。
 ……昔からちょっと苦手だってわかってたのに、ごめん」

 事件に巻き込まれたとか、トラウマがあるとかそういう理由じゃなく、ただ何故か昔から苦手。
 珍しく俺から聞いたんだっけ。

「そんなこと気づいたの、香音くらいだよ」

 だって君こそ黙るから。

「みんなには、言った?」
「ううん。とりあえず支障ないから」
「……そう」

 自分が我慢すればいいと思ってる、夏も大概だ。
 それに鳴海君は支障がありそう。全然知らない感じだったし。
 うーん……食堂で言われたことはさすがに話さない方がいいかな。
 よし。

「あのね、俺が言うのも難だけど……助けられないのが、嫌だった。
 触られるのが苦手って言うつもり無いなら、それでいいと思う。
 だけど、困ったら俺が防波堤になりたい。
 悲しい思いをしてほしくない。笑っていてほしい。
 できれば……一緒にいたい。どんな形でも」

 俺が頑張れば、夏が許してくれればなんとかなる、はず。

「ギクシャクするなら、付き合ってなくてもいいんじゃないかなって……俺は、思った」

 いろんなことを見つけてくれる、夏の青い瞳を見る。
 ずっと俺ばっかりが喋っていてごめん。でもこれだけは伝えさせて。
 一世一代の告白だから。

「俺、夏が好きだよ。
 だからもう一回、友達になってください」


 □■□


「……っていうことで、別に付き合ってないよ」
「え、江西殿は!?」
「愛と帰ったよ。二人とも方面があっちだから」
「アリなんですかそれ!?」
「『仲直りしたって自慢してくる』って。すごい嬉しそうだった」

 ご自身も周囲にお花が飛んでます。
 ううう……別にキュンとかしてませんし。そんな笑顔を振りまかないでください誰かに見られたらどうするんですかそれがしが困ります。

「俺も、秦さんに聞いてほしかった」

 神様はまた罰を与えるのでしょうか。
 上げて落とすの上げる段階でしょうか。ええ、お望み通り有頂天ですよ。

「……目にもの見せてやります」
「え?」
「いいえ! こちらの話です!」

 それがしは江西殿とのような仲にはなれないでしょう。
 ですがもう、綺麗に諦めることなんて出来ません。
 死んだと思ったキャラが実は生きていたパターンの気分です。

「梅宮殿、この後お時間ありますか!? 仲直りのご自慢をして頂くついでに、新刊を入手しに参りましょう!」

 やってやろうじゃないですか。オタクをなめないで頂きましょう。
 ハマるとどっぷりいきますからね! お覚悟!

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