さよならを言うのです
「俺、夏が好きだよ。
だから--」
梅宮殿に一方的な感情をぶつけて数日。
忘れ物を取りに来てよかったです。
これで、罰はきっと終わりますから。
□■□
どうしてこんなに苦しいのでしょうか。
梅宮殿の目を見れば、わかりきっていたことなのに。
「うぐ……う、ぐすっ……」
自分のクラスなのに逃げることで精一杯でした。忘れ物は置き去りです。
昼間と打って変わり、人の気配がしない食堂。鼻を啜る汚い音が木霊します。
ここでたくさんお話した思い出も。
『……一緒に買っちゃおうか。おばちゃん、これも』
『へひい!?』
『え?』
『いやなにも!! あああありがとうございます!!』
『うん……キャンペーン中みたいで、こないだのアニメの、コースター配ってた』
『なんですと!?』
『いる? 俺も姉貴もスマーばっかり当たる』
『俺なんかの話、聞きたがってくれる人、あんまりいないから』
(…………帰ろう)
やっとやっと涙が枯れて、明るい校庭へ一歩踏み出します。
大丈夫。それがしはモブです。
わずかな時間でも夢を見せていただけたことに感謝すべきです。心を入れ替えます。
そう思ったのに。
「あ……秦さん」
「梅宮殿……」
神様がいるなら、どうしてこれ以上の罰を与えるのでしょうか。腐女子が人を想うことはそれほどの重罪だと。
「どうしたの? 目が、真っ赤」
今、一番会いたくて、会いたくないお方。嬉しくて、走り去りたいです。
紫の瞳にそれがしが映る。
「…………ちょっと擦りすぎてしまいまして!
それより、おめでとうございます!」
「え……?」
泣くなそれがし。
無理矢理に顔面の筋肉を引き上げ、震えないように腹から声を出します。
「江西殿とまたお付き合いできて、よかったですね!
お幸せに!」
きっと初めての恋でした。
鼻と目の奥が痛むけれど、今日の嘘もいつか本心になってくれます。
「立ち聞きしてしまって申し訳ないです! あ、すぐに居なくなりましたのでご心配なく!
それでは--」
「あのさ」
浅ましくもそれがしの足は止まりました。
「俺、夏と付き合ってないよ?」
「………………へ?」