物語の奥付けにあるような話


 麗かな早朝の川辺。
 人といえば釣り好きがたまにやって来る程度で、釣竿を片手にした初老の男もその一人だった。
 普段は誰もいない時間帯。
 通い慣れた穴場に、やけに大きな黒い塊が流れ着いていた。
 彼がおそるおそる近づいたそれは、黒髪の男だった。
「…………おい、あんた。大丈夫かえ?」
 釣り人が男の肩を何度か叩くが反応は無い。ずぶ濡れで張り付いた黒髪を避けると、生きているかすら危うい肌の白さだった。
 救助を呼ぼうと、釣り人は踵を返す。
 だがその足を何かが掴んだ。
 振り向くこともできないまま、釣り人は膝から崩れ落ちた。
 反比例するように、伏していた黒髪の男の、重い瞼がゆっくりと開く。
「………………会うためか」
 鋭く冷えた瞳が、息を吹き返した。