第十五話
村に、混乱が残りながらも今後の見通しが立った頃。
そのざわつきに乗じて、小さい水色がトコトコと俺の側へやってきた。
「ペリーさ……じゃなかったペリドット副隊長、先に帰還すると聞きました」
「ああ。
引率の千景は残る。アーモンドは途中私用で抜けるが、雅がそっちにつくから頼んだぞ」
「任せてください! それから、国王によろしくお伝えください」
「……ああ」
例の爆発は中央管轄になり、俺は報告がてら戻り次第そちらの指揮を取ることになった。
黙らせなければいけない連中、じゃなかったな。国の安全を憂いている高貴なご身分の皆様がいるので、はっきり証拠を突きつけるまで千景の陣は使えない。
飛行盤で王族の城付近まで通りがかった時、もう日は沈みかけていた。
白い城壁が夕焼けに染まる。
我らが国王が、塔の屋上でウロウロしていた。
そこは城から細く生えた見張り台のようになっていて、ドラクーンにしろ飛行盤にしろ、カービャックから飛んで来たらすぐわかる場所だった。
奴はちょうど頭を抱えていたせいで俺に気づいていないようだが。
(なにやってんだアイツ)
俺は一つため息を吐いてその塔へ降り立った。
「! ペリー! よく戻っ「そわそわすんな」
「うぐっ」
飛行盤を圧縮陣に入れながら、図星ヅラの奴に伝える。
「普通に無事だったから安心しろ。オトモダチもあの分なら心配いらねえよ」
「…………そうか」
奴は肩の力が抜けたように、ヘラりと笑みをこぼした。そしておもむろに石の壁をぐいっと押す。
するとすぐ下から、大きめの石でカモフラージュした引き出しが開いた。
中にはキンキンに冷やされた瓶が詰まっていた。
「なんでそんなモンあるんだ」
「サボりスポットなんだぜ、ここ」
「仕事しろ」
とは言いつつ、俺も瓶を受け取って喉を潤した。
これからアホな個数の解析をしなきゃなんねえんだ。このくらいは構わねえだろ。
そしてジュースと遜色ない瓶の中身は、生前彼女が好んでいたものだった。
「……ユマ、喋り方がサファイアにそっくりだな」
「顔もだぜ」
「知ってる。フードで隠してるから余計に思っただけだ。
中身はお前に似ちまった」
「サフィーに似た方が手ェつけられなかっただろ……」
などと言って奴が怯えてみせるが、口の端は上がっちまってる。
「顔がだらしねえぞ国王」
「多めに見ろよ世界一かわいい娘の話だぜ」
「るせえ」
俺は瓶を煽った。
気持ちはわかるが、言ってやるつもりはない。墓まで持っていくことだ。
(可愛くねえわけねえだろうが)
惚れた男と、好いた女のガキなんだから。