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第二十五話


 運命の森で土煙が盛大に舞っていた。
 空中で千輪を放ったマックスがべちゃりと落下する。
「いたっ」
 硬い大地にしては温度があった。
 マックスを受け止めたのはドラゴンの腹部だった。
 竜は仰向けで気を失い、鱗からは土煙に混ざって焦げた匂いも立ち上っている。
「勝った……?」
 その時、ドラゴンが唸りながら起き上がる。
 マックスは転がり落ち、着地しつつも勢いを殺しきれず尻餅をついた。
 彼が見上げるドラゴンの口端から、燃える炎が溢れていた。
(屈服条件って上に乗ることなのに!?
 お腹ってまさかノーカウント!?)
 青ざめるマックスを一瞥し、ドラゴンは大きく吠えた。
「ふ……ふはははははははははははは!!」
「!?」
「牙を磨いたか! あの時、一瞬でもオレサマを追い詰めた! その牙を!」
「な、なんのこと……?」
 座り込んだままのマックスへ、ドラゴンがずいっと鼻先を寄せる。
「良いだろう、小僧。
 契約だ。呼べば力を貸してやるが、つまらん事で呼んだら焼き殺すぞ」
「ひいい……」
 火の粉混じりに吐き捨て、ドラゴンは尊大な姿勢に戻り、新たな契約主を見下ろした。
「そもそもよく一人で森に来たな」
「いや、来たというか……今、戦争してるんですよ。
 爆撃にあったと思ったらここにいたんです」
「戦争ォ?」
 ドラゴンの瞳がきらりと輝いた。
「おい、相手はどこだ」
「ふぇ……フェリクシアです。こっちが有利なはずなのに西側が攻められて、ぇええ!」
 話の途中だが、ドラゴンはマックスを軽々掴んで放り投げた。そして同時に飛び立ち背中で彼を受け止める。
「このオレサマの力を見せてやろう! 我らが初陣だ!」
 マックスは、ごう、と風を切るドラゴンにしがみついてようやく叫べた。
「うわああああ!?」
「人間の戦争なんざ大将を討ち取れば終いだ! 任せておけ!」
「そ、そんな単純じゃ……!
 というか僕、陣営に戻らないといけないんですけど……!!」
「爆撃で死んだことになってんだろ! 支障無い!」
「ある! なんかある気がする!!」
「気のせいだ掴まっとけ!」
 マックスの悲鳴と共に、真っ赤なドラゴンはぐんぐん景色を置き去りにしていった。
 森は彼方へ消え、山をいくつか越えた頃。
 一面が曇り空となり、色とりどりの光が弾けては消え、弾けては消え、を繰り返していた。
 それは飛び交うカラーとドラゴンが放つ炎だった。
(ここは中央の陣営……戦線が押されている……!?)
 マックスの動揺を感じたわけではないが、ドラゴンが翼をはためかせた。
「やってんなあ。混ざりたいところだが突っ切るぞ」
「え」
 しかし、マックス達の前へ立ち塞がるようにドラゴンが躍り出た。
 まさに戦闘が始まるその時、マックスは相手の鱗が緑色で、ドラクーンが赤い装束の少年と気づいた。
『雅くん!』
 マックスは慌ててドラゴンの鱗を叩いた。
「味方です、攻撃しないで!」
「見りゃわかる。あの時の小僧だろう」
 雅も見知らぬドラゴンに乗ったマックスに気づき、心話術を返した。
『マックス!? 其れは如何した!』
『いろいろあって契約して……ちょちょちょ待って待って!』
「何処へ行く貴様ああああ」
 赤いドラゴンは全てを無視して直進し、その後方で雅が肉声で怒鳴っていた。
 爆進する彼らに、果敢にも攻撃をしてきたフェリクシア兵も居た。
 だがドラゴンが適当に噴いた炎を避けることで手一杯。誰もまともに足止めできなかった。
 そして深紅の竜は戦場を我が物顔で突破し、その後に緑のドラゴンが軽々と追いついた。
「先輩、お供しますぜ。そいつにしたんスか?」
「まあまあだったからな」
「おい、俺様を乗せながら媚びるな!」
「ねええええどこ行くのおおお」
 赤いドラゴンは笑いながら言った。
「フェリクシアに決まっているだろう!
 昔から頭の固い連中ばかりだ、どうせ拠点も大差ない! ほらな!」
 地平線から現れたのは、灰色の壁に囲まれた、白い建物の群れ。
 その中央に、一際荘厳で目を引く大きな塔があった。
「あれが大聖堂、この国の聖域だ!」

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