「……み、みた?」

「何がだ?」

 

 好きなものを好きで何が悪いのだ?

 

 

 □■□

 

 

 だから! 喋ってないじゃんなぜ睨む!?

 

「豚、ちょっと殴らせなさい」

「落ち着け江西! お前のパンチ痛いんだよ!」

 

 今日も今日とて高嶺の百合様にガン飛ばされましたー。

 鳴海とはここのところ全く関わってないんですがー?

 あーああ全くもう。こんな時はミルクティーだ。

 

 気分転換に購買ではなく、別棟の片隅にある自販機へ。ここのはちょっと種類違うんだよね。

 愛士に香音とのことを聞いてもらっていたっけなあ。

 

「夏……おはよう……」

「あ、香音だ。おはよう」

 

 噂をすれば(声に出してないけど)。

 私よりずっと高い位置にある紫がこてんと首を傾げた。

 

「………………元気、ない?」

 

 普通に話せる感動を噛みしめる間も無く、鋭い一言。眠そうなくせによく見てる。

 

「んー……私が男だったらよかったなあと。ははは」

「……俺?」

「あ、ごめん違う」

「…………鳴海君?」

「さすが」

 

 お構いなく買って、と促す。そうしないと香音はいつまでも待っちゃうから。

 

「彼女できそうアンド彼女が私と鳴海に関わって欲しくないっぽい。しょうがないんだけど」

 

 香音は緑茶とパックのヨーグルトにしたらしい。細長い身体を折り曲げて自販機からジュースを拾い上げた。

 紫の瞳が私を映して止まる。

 下手するとこっちより真剣に、香音が言葉を探して丁寧に組み立てている沈黙。嫌いじゃない。

 そろそろ喋るかな、と思ったその時。

 

「変わった方もいらっしゃるのですね」

 

 きらきら波打つ金髪の王女、もとい三宝院さん。

 女神が自販機脇の階段から陽光を背負い降りてきた。

 

「立ち聞きして申し訳ありません。上の階に響いていて」

「えっ、そうなの?」

 

 マジか。知らなかった。

 三宝院さんは香音に軽く会釈をした。

 

「二組の三宝院 撫子と申します。口を挟んでしまうことをどうかお許しくださいませ。

 夏さんには大変お世話になっております。だからどうしても放っておけなくて」

 

 彼女は私に向き直って続けた。

 

「わたくしでしたら、恋人のご友人と仲良くしたいですわ。男性でも女性でも。

 だって、愛する人が慕っている方々でしょう? 恋人の大切な一部と考えられませんか?」

 

 微笑みはいつも通り慈愛に溢れているけれど、ブラウンの丸っこい瞳はかつてない程に力強い。

 

「自分の身体と関わらないなんてできません。夏さんが身を引く必要なんてありませんわ」

 

 世界中から肯定された気がした、なんて大袈裟かなあ。ほら、神々しいから。

 励ましてくれたことが素直に嬉しかった。

 

「……すぐに諦めちゃうのは、悪い癖だよ。俺も人のこと言えないけど」

 

 香音も同じことを思っていたみたいで、かすかに笑っていた。

 

「鳴海君は、夏と一緒にいたいと思うよ」

 

 

 □■□

 

 

 せっかくいい気分だったのに。

 三宝院さんと戻ったら教室が修羅場になっていた。

 

「なるみんなるみん、喧しいわ。そんなに男をもてはやして恥ずかしくないの? 少しは異性と会話する努力をしなさいな」

「もてはやす領域なんてとっくに越えている! あと女子と普通に会話できるからな!? さっきまで江西と喋っていたからな!?」

 

 小柴と高嶺さんが激しく言い争っていた。マジか。

 そしてなぜ私を巻き込んだ豚。サンドバックだから脳がないのかな? あ?

 たまたま居合わせちゃった元地君と、どうにか場を収めようとしている愛士が私に気づく。

 次いで高嶺さん。小柴は「江西……」とかシリアスな顔して呟くな参加が確定しちゃうだろ。

 

「……あのさ、男とか女とか関係なく仲良かったら、友達だったら駄目かな」

 

 まあ、参加だけど。

 

「取らないよ。心配するようなことは無いさ。

 でもあいつは私にとっても大事な友達なんだ」

 

 高嶺さんが形の良い唇を引き結ぶ。

 教室には嫌な感じの沈黙が流れていた。

 

「お前は『恥ずかしくないのか』と言ったな、高嶺」

 

 ぶった切ったのは小柴だった。

 

「好きなものを好きで何が恥ずかしい!? 俺がどう思われようと構わない! 

 だがなるみんの知らぬところで姑息な手段を取ることは見過ごせん!

 それが漢の友情だ!」

「私は女だこの豚が。出荷するぞ」

「え、あっ。ご、ごめん」

 

 鳴海に対する友情と崇拝を足して二で割らなかった小柴を罵った。

 なんか違和感。

 私と豚の言ってること、どこか食い違ってないか?

 

「知ってるもん……」

 

 あ、しまった。二人掛かりで言いすぎた。

 高嶺さんだってただ好きなだけなのに。

 彼女はスカートを握りしめて俯く。

 

「小柴のそういうとこが好きなんだもん!」

 

 うっわ可愛い。

 違った今何て言った?

 

「百合華!? なんで泣いてるの!?」

「なるみぃ……言っちゃったあ……! ふええ……っ!」

 

 丁度よく戻ってきた鳴海が目を丸くしていたけどちょっとそれどころじゃないわ。

 たった今理解した。私ツンデレとかギャップが好きなんだ。

 アミは見た目が結構キリッとしててツンだけど中身がシャイでデレじゃん?

 高嶺さんはもうストレートなツンデレじゃない?

 クール全開な高嶺の花がふええって。ふええって。

 

「江西、顔が見れたものではないぞ」

「いや私にはアミが……」

「アミちゃんは僕のだよ」

「おいそこ無駄な争いするな」

 

 高嶺さんは、よく絵本とかで見る“えーんえーん”みたいな手をしていた。kawaii。

 その隣でおろおろしている小柴が邪魔だわ。

 

「なるみんが好きなんじゃないのか!?」

「違うに決まってんでしょ! あんたが馬鹿だから相談乗ってもらってたの!」

「えええ……。

 と、とりあえず場所変えるぞ、あと泣くな!」

「泣いてない!」

「えええ……」

 

 

 □■□

 

 

「えっと、そういうわけで最近こっち来れなかったんだ」

 

 久しぶりに鳴海がいる昼休みだ。相変わらず秦さんの席を占領している。今度お菓子とかあげなさいよ。

 

「結局あの二人は付き合ったの?」

 

 私は高嶺さんに(シュンとした涙目で)謝罪された(もう何もかも許した)けど、そこまでは聞いていなかった。

 

「うん。お互い相手に振り回されてるって言ってて面白いよ」

「一番振り回されてたの、鳴海じゃないの?」

 

 んー、と鳴海はリップでぷるぷるの唇に指を当て小首を傾げた。

 

「そうかもしれないけど、百合華だけじゃラチ開かなかったから」

 

 知り合ったきっかけが『小柴が馬鹿になるから侍らせるのやめなさい』と鳴海に突っかかったことだったらしい。そりゃ開かねえわ。

 

「夏も巻き込んじゃってごめんね」

 

 寂しかった? なんてちょっとおどけやがったなこの小悪魔。

 

「……あのまま話せなくなったら、ちょっと寂しいかな」

 

 食らえマジレス。私だってそこまで冷血じゃないわ。

 鳴海は豆鉄砲に被弾した鳩みたいになっていた。それでも絵になるって揺るぎないなこいつ。

 鳩ヅラが恥ずかしかったのか、やや赤らんだ顔で鳴海が唾を飲む。そして少し視線を彷徨わせたあと大きく息を吸った。

 

「俺--」

「あ、香音だ」

 

 今誰か舌打ちした? 幻聴かな。

 

「……ごめん、鳴海君」

 

 鳴海の後ろに紙袋を引っ提げた眠そうな紫がいた。

 

「そういえば知り合いだっけ?」

 

 二人の顔を見やる。共通点なんかあったっけ。

 

「ちょっとねー。ていうか何の用事?」

「……姉貴のおつかい」

 

 香音が秦さんの机に袋をかけた。お姉さんもたしか漫画好きだったな。

 

「そういえば夏祭りの日、空いてる? みんなで行こうよ」

「……いいの?」

 

 困ったように香音が鳴海を見る。

 

「好きにすればー」

 

 鳴海は私側の腕で頬杖をついていた。

 そこ知り合いなら問題ないっしょ。

 

「えっと……二日目なら(秦さんと約束してるイベント、初日とカブってたかも)」

「ん。了解」

 

 いつものメンバーにも声かけよう。

 鳴海がそこに混ざってくれたら、嬉しい、と思う。調子乗るから言わないけど。

 

「お、香音じゃん。お前らなんとかなったの」

 

 噂をすれば耕太郎と三宝院さん、愛士と時雨が購買から帰ってきた。

 そういえば猿に何も言ってなかった。

 

「うん、お騒がせ。今年も夏祭り行けそう」

「そっか。よかったな。じゃあちょっと負けてやるよ」

「奢りでしょそこは」

「おい」

 

 輪の中で笑いが伝わって満ちる。この感じが好きだった。戻れてよかった。

 香音もほんのり笑っていた。

 

「えっと、うちの実家が屋台出してるんスよ。毎年オレも駆り出されてるんスけど」

「まあ! 素敵ですわ」

 

 話が見えていない三宝院さんに耕太郎が説明する。

 短い付き合いだけど、彼女はちょっとわくわくした顔をしていた。

 誘え、猿。そこはお前からだ。あ、でもこいつ当番抜けれないんだっけ。いや気合いでどうにかしろ。

 

「撫子様あああ」

 

 このタイミングで盛大な登場をかました元地君が、さらっと耕太郎に膝カックンをする。実は仲良いよね?

 

「千里さん、夏祭りに行きませんか? 耕太郎さんのご実家が屋台を出してらっしゃるそうなんです」

「八月のですか?」

 

 喜んで、と言いかけた元地君は突然目潰しを食らったように頭を抱え、流れるように土下座をかました。

 

「申し訳ありません撫子様……! 実は先約が……!」

「あら、そうでしたの。お気になさらないで」

 

 もう土下座は放っといていいかな。三宝院さんもスルーだし。

 

「じゃあ三宝院さんも私たちと行こうよ」

「よろしいのですか?」

「この辺の連中みんな誘ってるから」

 

 すると眉間に皺を寄せた元地君が、何やら考え込んで一言。

 

「……実は相手が雪村妹なので、ご一緒できるか相談してみます」

「それは行ってきてくださいませ」

「元地君こっち来ないで」

「江西までなんだ!?」

 

 直後、指の長い綺麗な手が全握力をもって彼の肩を鷲掴む。

 

「アミちゃんが誰とどこに行くって……?」

「痛え! 俺は誘われた方だからな!?」

 

「ふふ。楽しみですわ」

「そっスね。手伝い終わったら連絡しますんで、その、花火見ましょう」

「是非! むしろお手伝いさせて頂きたいですわ!」

 

「梅宮殿、ってお取り込み中でござったか! 失敬!」

「あ…………大丈夫。これ、姉貴から」

 

「なるみぃ! 聞いてー!」

「ちょっ、なるみんに迷惑かけるな! ただでさえ江西が鈍感で……」

「わああ! しーっ!」

 

 大騒ぎになってきた。

 お客様の中にツッコミはいらっしゃいませんかー。

 とりあえず愛士のブレーキ呼ぶか。時雨が関節技で止めてくれてるけど。

 

「夏、今の話聞いてた……?」

「え? 全然。アミに何て連絡しようかと」

 

 気の利いたフレーズが思いつかないなあ。

 鳴海がへなへなと秦さんの席で沈んだ。本当に我が物顔だな。

 そしてチラッと横目で見てくるのは何か悪だくみしてる時。

 

「聞かれててもいいけどね?」

「ん? そう」

 

 ピンクのアイドルがちょっといたずらな上目遣い。だからなんで私にかわい子ぶる。

 見えない角度にいるはずの小柴がよろけているだろノーコン。

 あ、閃いた。

 

「……誰に連絡取ってるのさ。俺を差し置いて」

「アミ」

「うぐぅ」

「拗ねた声出すな。もうちょっとでかまうから」

「浴衣一緒に見に行ってくれたら許す」

「はいはい」

「! ぜ、ぜったいだからね!」

「はいはい」

 

 件名:うちのクラスでラブコメが氾濫してるんだが

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