「だからいい加減にしろってドM!」

「黙れメガネ猿! 白昼堂々卑猥な単語を叫ぶな!」

「お前の性癖だからな!」

「笑止! 浅はか過ぎて哀れだな。俺は誰に罵られても喜ぶ変態とは違う!」

「のののしられて喜んだらどっちにしろ変態だろうが! あ、お前次移動だろ! ほら帰れよ!」

「“ののしられて”だ! 猿め、せいぜい辞書でも引いておくんだな!

 それでは撫子様、また参ります」

 

 元ヤンこと、元地君はしょっちゅううちのクラスにやってきて、大半は耕太郎と喧嘩して帰っていく。三宝院さんより耕太郎の方が話しているんじゃないのかな。時間割まで把握してるし。

 みんなも慣れてああまたか、と気にしなくなってきた。

 むしろうちのクラスの方が友達多そう。席が近い私や愛士みたいなフレンドリー野郎とか。この前は意外にも女子と普通に話していた。綺麗な顔してるからかなあ。本人はあくまで三宝院さんが世界の中心みたいだけど。

 さて。

 

「じゃああんたも帰りなさいよ、鳴海」

「えー。まだ時間あるじゃん、だめ?」

 

 元地君が来るようになってから、鳴海が私の前にいることも多くなった気がする。ただでさえ顔面偏差値がエベレスト級なのに。そして秦さんに悪いと思わないのか。あの子あんたが来ると思って毎時間どっか行ってるぞ。

 

「かわい子ぶるのやめなさいよ。小柴のハアハア音がここまで聞こえそう」

「それなんの音?」

 

 小柴だけじゃなかった。小森とかその辺も一斉に呼吸を荒くしてるから、変態の鼻息が輪唱のようになっている。暑苦しいしキモイ。

 

「あんたの方がでかいのに上目遣いするんじゃないわよ。おい、覗き込むな近い」

「仕返ししてもいいんだよ!」

「しねえよ。

 ……あ、お茶買ってくるわ」

 

 この時間に済ませておかないと、次は昼休みなので購買がアホのように混んでしまう。愛しのミルクティーが……! 紅茶ならなんでも飲めるんだけどね。

 

「じゃあ俺も行く。財布とってくるから待ってて」

 

 お前もかい。まあいいや。

 

「ムサいのは置いて来てね」

 

 はーい、と言う鳴海を見送ると猿が口を挟んできた。

 

「やべえ! オレも昼買ってねえや」

「じゃあミルクティーよろしく」

「パシるんじゃねえよ!」

「騒ぐんじゃねえよ」

 

 アカゲザルとかいう種類いるよね。

 ……なんか視線を感じる。

 

「三宝院さん、どしたの?」

 

 生きるフランス人形からだった。こんな表現すると怪談みたいだけど、呪いとかとは真逆の存在で、もはや神々しい。

 

「お邪魔でなければ、わたくしもご一緒してよろしいでしょうか? 購買に行ったことがなくて……」

 

 場所的な話ではなく、購買で買い物したことがないんだろうと思った。猿太郎、間違えた、耕太郎も行くしちょうどいいか。

 

「うん、行こうよ。私のおすすめは生クリーム入りミルクティー」

「……どちらで煮出せばよろしいのでしょうか?」

 

 軽率に庶民向けを勧めてしまった。

 

「えっとね、市販品のパックの奴なんだ、このくらいの。もうちょっとお手軽に飲めるし好みによってはおいしいよ」

「飲むヨーグルトが入っているアレですね!」

 

 三宝院さんはなぜかパックという言葉に目を輝かせていた。飲むヨーグルトは知ってるんだ。

 

「僕も行こうかな」

 

 なぜか愛士も着いてきた。ただ購買行くだけなのにやたら大所帯だな。

 あ、丁度いいところに。

 

「時雨、購買行こ」

 

 教室に戻って来たもう一人の王子を取っ捕まえた。

 

「あたし今行ったばっかりなんだけど」

「散歩だよ散歩」

 

 最近愛士と喋っているのを見ていないからっていう、ちょっとしたおせっかい。

 王子が並んでるのも久々な気がする。

 

「時雨ちゃんも行くの?」

「えっ、あ、うん」

 

 時雨の耳が赤いことは黙っておいてあげようかな。にやけちゃうくらいなら、もっとこっちの席来ればいいのに。

 ていうか……呼んでおいて難だけどすごい目立つ集団になってしまった。猿の隣に居よ。

 

 

 □■□

 

 

 人数が多いとなんとなく列が出来上がったりする。

 

「うっわ。愛、今日の部活ミーティングしてからだって。練習時間減るよなー」

「まあまあ。作戦も大事だよ」

「時雨さんはおいくつから空手を?」

「小さい時から道場に出入りしていたんだけど……ちゃんと始めたのは六歳からかな」

 

 前に愛士と耕太郎、後ろに時雨と三宝院さん。真ん中が私と鳴海。

 どうしてこうなった。

 

「夏? テストでどうしても解けない問題にすごい悩んでるみたいな顔してるよ?」

「こないだの小テストでやったわ。問題文読み落として」

 

 能天気な桃色ヘアは腹立つくらいツヤツヤだ。こいつの枝毛とか見たことない。

 

「そんな夏ちゃんに朗報でーす! 学校出て右のコンビニ近くにカフェができましたー!

 ミルクティーがおいしいんだって。一緒行こ?」

 

 鳴海が透き通った緑の瞳を潤ませて小首を傾げた。だからなんで私にかわい子ぶる。

 

「いいけど……朗報っていうかあんたも行きたいだけでしょ」

「バレた?」

 

 小悪魔はいつものふわっとした感じではなく、少し肩を竦めて悪戯っぽく笑った。そういうことするから、野郎共の心臓をわし掴みにしてシェイクした挙げ句に粉砕しちゃうんだよ。こいつ家で笑顔の研究とかしてるんじゃないの。

 

「あの店さ、遅い時間行くとがっつり系の飯もあるんだぜ。すげえうまいの」

「耕ちゃん行ったの?」

「部活帰り先輩とさー」

 

 人数が多いとなんとなくシャッフルもされる。

 鳴海が耕太郎と並ぶと、私がぼっちにならないように愛士が隣に来てくれた。こういうとこでモテるんだよな。だけどなんだろうこの、そうじゃない感。

 

「難しい……」

「そうだね」

 

 うっかり口を滑らせただけの言葉を、この銀髪王子はきっちり拾った。愛士は何を肯定してくれたんだ。

 昔よりずっと高くなった顔を見上げると、金色の目が困ったように細められていた。

 だから、真後ろの会話を聞いていなかった。

 

「お二人から、時雨さんは自慢の幼馴染みと伺っております。

 わたくしは転居が多かったので、長いおつきあいが羨ましいですわ」

「あいつらまたそんな話を……。

 小さい時から一緒でも、愛がなに考えてるかわかんない時とかあるよ」

「そうなのですか? わかりやすい方かと思っておりました。

 今日だって、夏さんをお誘いしたら一緒にいらっしゃいましたし」

「………………そ、そうだね」

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